化学療法や放射線療法、免疫抑制療法だけでは治すことが難しい血液のがんや、免疫の病気などに対し行われる造血幹細胞移植。非常に強い副作用や合併症を生じることもあるため、移植前の準備や移植に伴う負担を患者さんやご家族、そして医療者が一緒に乗り越えていかなければなりません。 今回は北海道大学病院で造血幹細胞移植を受け、現在は外来受診を継続されている初野様と早川様に、体験談や患者さんとしての思いをお話しいただきました。(注意:今回のインタビューでの造血幹細胞移植は、同種移植のことを意味します)
初野様:
原因不明の発熱が続き、検査したところ成人T細胞リンパ腫白血病であることが発覚しました。根治のため残された最後の道が造血幹細胞移植であるとの説明をいただき、一縷の望みにかける思いでした。先生が私の精神状態をみながら丁寧にリスクの説明をしてくださったので、リスクも理解したうえで決断することができました。
もともと持病があり車椅子利用者の私がハードな治療を乗り越えることができるのか不安はありましたが、「私は、根治するための手段を取るしかない。」という気持ちでした。
味覚や嗅覚の変化を感じるなかでスタッフの方々に助けられた
抗がん剤治療や放射線治療が進むなかで食欲や味覚、嗅覚が薄くなっていき不安になりましたが、先生から一時的な症状であることを教えていただきました。味覚や嗅覚の回復には半年ほどの期間がかかりましたが、今では完全に戻っています。
治療病室には、さながらドラマのセットのようにたくさんの機器が搬入され、自分の病気の重さを実感するのは容易でした。不安になりましたが、スタッフの方や先生の丁寧な対応とサポートのおかげで完璧な準備ができました。
「必ず帰る」と家族に伝え、職場にサポートをしてもらった
家族には、「必ず乗り越えて帰るからね」と不安を悟られないように伝えました。
職場に対しては退院後から職場復帰までの流れを上司に伝えたところ、リモートでの在宅勤務ができるよう体制を整えてくれました。退院後の福利厚生の面でも十分にサポートしていただけたので、安心して治療に専念することができました。
いよいよだと緊張はしていましたが、十分な説明を受けていたので不安もなく、落ち着いて説明どおりの治療を受けることができました。移植中は先生が常にそばについて雑談をしながら作業してくれました。移植といっても輸血しているような感じで、気がついたら終わっていたのでどこか不思議な感覚でした。
少しずつ体調が回復し、味覚も戻って手料理が食べられるように
移植した細胞が“生着”するまでの1日1日はとても長く感じましたが、白血球や赤血球、血小板の値が増加していき、先生より「細胞が生着しました。」との結果を聞いた時は家族と涙しました。その後は血液検査の結果も良好で、徐々に回復している実感が湧いてきました。
移植直後はなかった食欲も徐々に戻り、加工食品から始まって少しずつ食べられるものが増えていきました。今では以前と同じように妻の手料理を味わっています。
LTFU外来に通うなかで感じる北海道大学病院のサポート体制
多種多様な診療科の外来を受診していますが、どの科の先生も私の病状を理解したうえで体調に応じた診療をしてくださることに、院内のチームワークのよさを感じています。現在は月に 1~2回の受診ペースですが、検査の結果が「順調ですね」と言っていただくたびに安心感が深まっています。
日常生活では日々の体調に気を配って、基本的な体調管理を徹底しています。
周囲の存在に心を支えられた
先生方とスタッフの皆さんの自信溢れる、揺るぎない姿勢は本当に大きな支えでした。治療方針が一貫していて安心感がありました。
そしてやはり家族の笑顔や見舞いに来てくれた友人といった、周囲の人たちの存在が心強かったです。
造血幹細胞移植が気力体力ともに求められる厳しい治療であることは事実だと実感します。しかし先生の態度、スタッフの方々の笑顔により、「治療方針に自信があること」が容易に見て取ることができます。病気を克服できるよう、スタッフの方々がチームになってサポートしてくださるので、ぜひ前向きに治療に取り組んでもらいたいです。
心配な気持ちを抱えていらっしゃるかもしれません。もちろんその気持ちはありがたいのですが、どうか応援してあげてください。患者にとって、信じて待ってくれていることが何よりの支えになります。
治療にあたってくださった先生やスタッフの方々の揺るぎない姿勢、一貫した治療方針のおかげで、安心して治療に臨めました。どうかこれからも、この先移植を受ける患者さんが安心して治療に向かえるように、不安が少しでもなくなるように、リスクや治療内容について丁寧な説明をお願いしたいです。
その登録が人を助ける大きな一歩になると思いますので、ぜひ前向きに登録を検討していただきたいです。
ただし、ドナーの方にも一定のリスクがあるので、登録していただくときはしっかり理解していただくことも大事だと思います。
早川様:
健康診断の血液検査が発見のきっかけでした。健診スタッフの方に「精密検査を早くしたほうがよい」と言われ、病院に行ったところ急性骨髄性白血病と診断されました。
当初は白血病の中でも予後良好と考えられており、造血幹細胞移植まで行わずに、薬(抗がん剤)による治療を進めました。いったん治療が終わったのですが、その後再発してしまったのです。この時は非常にショックでした。
再発に対する治療として造血幹細胞移植という治療法があることと、具体的な手順や内容を先生から説明していただき移植を受けることに決めました。大変な治療になることは分かっていましたが、移植が一番の希望だったので、あまり不安な気持ちはなかったです。
スタッフの方々に支えられながら精一杯過ごした
準備期間中はあれこれ考える精神的な余裕がなく、1日1日を過ごすのが精いっぱいでした。放射線治療がとにかくつらかったのですが、先生や看護師の方々が優しく前向きに、親身になってしっかりサポートしてくださったので治療に専念できました。
家族や職場が治療を理解しサポートしてくれた
妻が弱音も吐かず、子どもや家庭のことは全てやってくれたのが大きな支えでした。大変ななかで私のサポートもしてくれて本当に助けられました。彼女の存在があったから、私も頑張って前に進めたのだと思います。
勤め先は、治療中も会社でのポジションや籍を残していただいて、何も気にせず治療に専念できるよう送り出していただきました。
退院後もそのまま受け入れていただき、サポートしてもらったことに心から感謝しています。
私が移植を受けたのはちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた時でしたから、誰もが自分の命を守るのに必死だった頃だと思います。その状況のなかでドナーやスタッフの皆さんが、自分の命よりも私の命のために、移植に必要な血液を提供し、輸送しようと奔走してくださいました。「私のためにたくさんの方が命のバトンをつないでくださった」――そう思うと、移植への不安よりもいただいた血液の温かさに、ただただ感謝の気持ちでいっぱいでした。
体調は徐々に回復し、職場にも復帰
移植後8か月ほどで職場復帰しました。「ここまでにこういう体調を目指して頑張ろう」と段階的かつ前向きに先生方がサポートしてくださったのでありがたかったです。
LTFU外来に通うなかで感じる北海道大学病院のサポート体制
いただいた移植手帳が日々の体調管理に役立っています。日常生活でとにかく無理をしないよう心がけていますが、外来受診の際には先生方が親身になって相談に乗ってくださいますし、看護師の皆さんが体のメンテナンスや日常生活の過ごし方についても細かく教えてくださるので助かっています。
このように、ちょっとした異常や不調にも先生方が親身になって対応してくださるので、何かあればすぐ相談するようにしています。
つらい時期は前向きな考えを意識。スタッフの方々にも助けられた
私はGVHD(移植片対宿主病)のときに起こった手足のかゆみや痛みなどの症状が1番つらかったのですが、あまり深く考えず、「いずれ治る」と常に前向きに考えるよう心がけました。
看護師の皆さんがつらい症状の対処法を教えてくれたことも助けになりましたし、先生が体調に応じて薬の量やペースを調整してくださったことにも感謝しています。
まずは「移植が受けられる」という事実に希望を持ってほしいです。かつて同じ病気の患者さんが移植を受けられなかった時代を経て、今自分が移植を受けられているのは幸せなことだなと感じています。移植のおかげで社会復帰できたのですから、これからはつないでいただいた命の分、社会に恩返ししていきたいと思っています。
サポートする家族も本人と同じくらいつらいと思います。でも、「必ず戻って来てくれる」、「絶対に大丈夫だ」と信じて、笑っていてほしいです。不安になるときには同じ経験をしている人たちの話を聞いたりして、乗り越えてほしいです。
まず何よりも、「ありがとう」という言葉を伝えたいです。とても大変な仕事をしてくださる医療関係者の方々のおかげで今の自分がいます。いつも感謝していますので、これからも患者さんに寄り添ってほしいと思っています。
今回私はドナー登録をしてくださっていた方に助けていただきました。その方のおかげで、家族におはようと言ったり食事をしたりという「当たり前の」生活が送れるようになりました。ですから、実際に提供する、しないは置いておいても、まずは登録を考えていただけたらとても嬉しく思います。
ドナーになってくださった方のことは絶対に忘れることはありません。毎朝毎晩、感謝しています。誰かがドナー登録をしたことで、幸せになれる人がいるのです。そしてドナーになってくださった方も幸せになることを、心から祈っています。
※インタビューはメディカルノート担当者と患者さん本人で行われ、新型コロナウイルス感染拡大下に伴い、WEBツールを用いて行われました。
※今回のインタビューを行うにあたり、患者さんへの連絡・インタビュー日時のセッティングに関して、北海道大学病院血液内科の後藤秀樹先生と、造血幹細胞移植コーディネーターの堀田いずみ様、神澤雅美様にご協力いただきました。