移植拠点病院としての取り組み

患者さんの“命のリレー”を
スムースにしていく第一歩です。

造血幹細胞移植は、白血病をはじめとするさまざまな疾患に対する強力な治療法として普及してきましたが、移植技術の進歩によって、より多くの患者さんに本治療法の恩恵を届けることが可能となってきました。実際、移植数は増加しています。とういうものの問題もあります。一つは、移植医療の高度化や、わが国のかかえる地域の過疎化の進行に伴い、移植施設のセンター化がすすみ、都市部でしか移植は受けられません。そこで、広大な北海道、すみずみまで必要な患者さんに移植を提供するには、迅速で正しい命のリレーができるよう、地域の病院と移植センターの風通しのよい連携体制の構築が必要です。二つ目は、今、移植医療の進歩によって、病気を克服し長期生存する患者さんがどんどん増え、今後もさらに増加すると予想されています。移植後には患者さんの免疫系はドナーさんから生まれた赤ん坊です。その成長を見守っていく必要があります。そのために母子手帳に基づいて赤ちゃんの成長を見守るように、患者さんが移植病院を離れても、どこでも状況がわかるような体制を工夫してつくることが必要です。最後に、せっかく病気を克服したのに、仕事がない、生活が苦しいということでは報われません。そのためには、ソーシャルワーカーなどの様々な職種の方にも関心をもってほしいと思います。

わたしたちは、この「造血幹細胞移植医療体制整備事業」を通じて、移植が必要な患者さんに最も適したタイプの移植を迅速に届けられるように、そして移植後もきめ細かいフォローができるようにしたいと思います。血液内科診療に携わるさまざまな病院で働く皆さんが、地域を超え、職種を超え、お互いに名前と顔を知り合ってほしいと願っています。それが地域の患者さんの命のリレーのバトンタッチをスムースにしていく第一歩です。皆様のご協力とご支援をよろしくお願い申し上げます。

「造血幹細胞移植医療体制整備事業」 実施責任者 豊嶋 崇徳
(北海道大学大学院医学研究科血液内科 教授)

拠点事業とは

造血幹細胞移植拠点病院とは、造血幹細胞移植を円滑に行うための「人材育成」および「地域連携」の中心的な役割を果たす病院のことを指します。

血液疾患(白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫など)に対して、年齢や病状に応じて造血幹細胞移植が選択されますが、北海道の中でも中核都市に住んでいる方と地方都市にお住まいの方で受けられる移植医療が異なることは望ましくありません。そこで、①移植医療の質の向上、②移植医療に関わる医療人の育成、③スムースな移植医療の提供(幹細胞採取の迅速化など)、④どこに住んでいても適切な移植が受けられるような医療体制の構築が求められています。これらの目標を北海道エリアで達成するために、2015年8月に北海道大学病院は厳しい条件をクリアして造血幹細胞移植拠点病院に選定されました。

造血幹細胞移植医療体制整備事業

1. 造血幹細胞移植医療体制整備事業

北海道大学病院は、厚生労働省が掲げる「造血幹細胞移植医療体制整備事業」(以下、本事業)において厚生労働大臣より認定された全国12拠点病院の1つです。
造血幹細胞移植医療体制整備事業について

本事業の主な目的は、血液の病気に対して「造血幹細胞移植」を必要とする患者さんが、どの地域に住んでいても適切なタイミングで造血幹細胞移植を受けることができ、さらには移植を受けた患者さんが、どの地域でも適切な長期フォローアップ(LTFU)を受けられ、質の保たれた生活を送ることができる医療体制を構築することです。

北海道大学病院は、北海道ブロックの拠点病院として、以下の3つのことを柱として活動しています。

<本事業の3つの柱>
① 造血幹細胞移植に携わる医療関係者の人材育成
② 北海道内の医療機関との連携
③ 造血細胞移植コーディネートの支援

2. 造血幹細胞移植連携支援センター

「造血幹細胞移植連携支援センター」はこの事業の一環として、造血幹細胞移植に関して、以下について支援していけるよう取り組んでいくことを目的とした組織です。

<主に取り組んでいる内容>
・患者さん、ご家族からの相談
・医療機関からの相談
・北海道内の医療機関との連携
・移植医療に携わる医療関係者の人材育成
・医療者向けの研修、セミナーなどの開催
・造血幹細胞採取の支援
・移植後長期フォローアップ(LTFU)の充実
・移植に関する情報提供

<主な構成員>
・センター部長: 豊嶋 崇徳(血液内科)
・センター副部長: 真部 淳(小児科)
・実務担当: 後藤 秀樹(血液内科)
・造血細胞移植コーディネーター(HCTC):3名
・血液内科医師:1〜3名(センター部長、実務担当を除く)
・小児科医師:1〜3名(センター副部長を除く)
・看護師:8〜10名程度(LTFU担当看護師含む)
・事務局:1名
・病院事務:1名

3. 移植医療における北海道特有の問題点

北海道は国土の約20%を占め、その広大な土地におよそ540万人(日本の総人口の約4.2%)の人々が暮らしており、都道府県別に見ると8番目に人口の多い地域です。
北海道のホームページ:北海道データブック2021より

全道各地で、血液の病気を患った患者さんは血液専門医のいる地元の病院に通院されていますが、病気の種類や状態によってはドナーさんから造血幹細胞を提供してもらい移植する同種造血幹細胞移植(以下、同種移植)が必要となる場合があります。しかしながら、同種移植が可能な施設は、札幌・旭川・函館の3都市に限られています。ゆえに遠方にお住まいの患者さんの中には、同種移植を受けるため、もしくは同種移植を受けたあとにこれら3都市(移植している病院)まで何時間もかけて通院しなければなりません。このような問題を解決するため、地元の同種移植を行っていない病院でも「移植前の管理」ならびに「移植後のフォローアップ」が行える体制を構築することが必要となっています。

この問題を解決するため、北海道大学病院造血幹細胞移植連携支援センターでは、同種移植をしていない地域の医療機関との地域連携ならびに人材育成を行うため、定期的に「造血幹細胞移植セミナー」を開催すると同時に、移植医療に携わる専門職(移植認定医、LTFU認定看護師、HCTCなど)を対象とした研修も行っています。また、地域の医療機関との連携ならびに情報共有を目的に、Web会議や連絡会議を行っています。

研修会について

LTFU認定研修

造血細胞移植件数が少ない、または実際を知る機会のない看護師が移植看護及び移植後フォローアップの要点と支援方法を学ぶ機会として基礎研修になります。

HCTC研修

「造血細胞移植が行われる過程の中で、ドナーの善意を生かしつつ、移植医療関係者や関連機関との円滑な調整を行うとともに、患者・ドナー及びそれぞれの家族の支援を行い、倫理性の担保、リスクマネージメントにも貢献する専門職」を造血細胞移植コーディネーター(HCTC:Hematopoietic Cell Transplant Coordinator)と定義し、その育成と普及を目指して、HCTC委員会を中心に教育・認定・広報活動を行っております。

出張研修

全国どの地域においてもスムースなドナーコーディネートの提供、さらには、より良い造血幹細胞移植医療の提供を可能とするため、少しでも多くの施設において実務者レベルでの情報共有を行い、「情報共有」だけでなく「地域との連携」をさらに強化していくことを目的としています。