北海道の広大な地に対し、同種造血幹細胞移植を行える施設は札幌・旭川・函館に限られています。これら都市から離れた地域に居住されている方が同種造血幹細胞移植(以下、移植)を受け、退院された後は、地元の病院と協力しながら移植後長期フォローアップ(以下、LTFU)を行っていく必要があります。
今回、北海道にある4つの医療機関(北海道大学病院、札幌北楡病院、釧路労災病院、北見赤十字病院)で実際にLTFUに尽力されている看護師の方々にインタビューを行い、移植施設側・地域の施設側それぞれの観点で、LTFUにおける取り組みや工夫をお話しいただきました。
●司会進行
北海道大学病院 血液内科/検査輸血部 講師 後藤 秀樹先生
●移植施設より
北海道大学病院 12-2病棟 看護師長 三宅 亜矢様
北海道大学病院 12-2病棟 看護師 村上 景子様
札幌北楡病院5病棟(造血幹細胞移植センター)副科長 斉藤 美保様
札幌北楡病院 外来 主任看護師 LTFU担当看護師* 小野 加奈絵様
●地域施設より
釧路労災病院 5階東病棟 看護師長 佐々木 育緒様
釧路労災病院 5階東病院 看護師長補佐 田口 沙由里様
釧路労災病院 6階東病院 看護師長 がん化学療法看護認定看護師** 佐々木 祐美様
北見赤十字病院 看護係長 住田 真弓様
*日本造血・免疫細胞療法学会認定
**日本看護協会認定
後藤先生:今回のオンライン会談は、北海道内でLTFUにいち早く取り組まれてきた施設にご参加いただき、現状について伺うことで、よりよいLTFUの構築を目指すことを目的としています。会談の流れとしては、移植を受けた患者さんを長期的に外来でフォローアップしていくLTFU外来に関して、各施設の取り組み、成果、課題について伺い、最後にこれから移植を受けられる患者さんへのメッセージについてもお聞きしたいと思います。
はじめに 皆さんが各施設で取り組まれているLTFU外来に対する取り組みと、手ごたえを感じている成果について伺っていきたいと思います。
北海道大学病院 村上様:北海道大学病院では総合病院である利点を生かし、必要時には皮膚科や歯科、婦人科、眼科など他科と連携してフォローアップを行っています。
また拠点病院として、移植を行っていない施設のスタッフを対象にLTFU外来の研修・見学を受け入れています。コロナの影響で予定どおりには進んでいませんが、最終的にはこの研修を通じて、非移植施設のスタッフもLTFU外来を実施できるようになっていただくことを目指しています。
成果としては、入院中から患者さんのセルフモニタリング・セルフケアの指導を継続していることもあり、GVHD(移植片対宿主病)を発症しても早期に対応できていることから、気がついたら悪化しているというケースは少ない印象です。そのほかにも、入院早期から退院後の生活を見据え、家族や地域の施設を巻き込んで退院準備を行っています。また、退院後1年間は入院中の様子を知る病棟看護師が外来でLTFUを行っていることが、よりスムーズな社会復帰につながっていると思います。
札幌北楡病院 小野様:札幌北楡病院には全道各地から患者さんが通院されており、中には片道4~5時間かかる方もいるため、少しでも体調に変化を感じた際には、電話で連絡していただくようにしています。大雪などの理由で来院が難しい場合には、電話で体調確認を行い、そのときの状況に応じて適切な方法を相談します。
また、外来看護師が退院した患者さんのLTFUを全て担当していることも特徴です。定期的なフォローアップ以外にも、内服薬の変更があった際や処置時など、患者さんの外来での状況を見ながら細やかに対応しています。また診察時や処置時などに声がけを小まめに行っていくことで、ちょっとした不安や疑問点を看護師に尋ねやすい環境を作ることができ、結果として患者さんが安心して通院できていると感じています。
北見赤十字病院 住田様:当院では移植を行っていないので、移植前の治療と移植後のLTFUを引き受けています。外来ではLTFUの問診票も併用しながら診察の前後に面談を行うことで、患者さん自身は問題だと思っていない体の変化にも気付くことができ、移植施設と遜色ないフォローアップが可能となっています。
また、診察後に理学療法士とのリハビリテーションを積極的に取り入れていることが当院のLTFUの特徴です。「6分間の歩行で健常の方の8割程度回復すれば終了」というように具体的な目標を設定しており、この目標が患者さんにとってリハビリを続けるモチベーションにもなっていると感じています。
釧路労災病院 佐々木(祐)様:釧路労災病院では、患者さんの状態に応じて2週間から2か月に1回のペースでLTFU外来を行っています。
当院の特徴としては、コロナ禍前は患者さんの生活状況や生活環境を確認するために、移植後転院した後に自宅を訪問し、ご家族の不安や受け入れ態勢についても確認するようにしていました。また通院に片道3時間以上かかる方もいるので、緊急時対応の体制構築には以前から取り組んできました。少しでも体調に不安や変化がある場合には夜間や休日であっても、すぐに連絡していただくようにしています。
後藤先生:移植後早期は、何かしらの不安や苦痛を感じられている患者さんも多いと思います。どの施設も工夫しながら患者さんとの信頼関係を構築していること、そのために社会的な背景や不安感などの心情に寄り添うことに力を入れているのですね。また、北海道という広大な土地でLTFUを行っていくための体制構築にも力を入れられていることが分かりました。
次に、これまでの経験から見えてきた問題点・課題について伺っていきたいと思います。
北海道大学病院 村上様:当院では病棟看護師がLTFU外来を兼任していますが、毎年のように経験を積んだスタッフの異動や退職があるため、常にLTFU外来を担当できる人材の育成が必要となっています。一方で、学会が認定するLTFU認定看護師の取得は、一定期間の経験を積んだ看護師しか取得できないことから、病棟看護師全員がLTFU外来を担当できるわけではありません。常にスタッフのスキルアップが求められると同時に、病棟看護師のマンパワー不足をいかに解消するかが課題になっています。ここを解決する方法として、LTFU外来を行う病棟看護師と外来看護師の情報共有をより密接に行い協力しながら行っていくことが重要であると考えています。
札幌北楡病院 小野様:産休や異動で外来看護師スタッフが減ってしまう場合に備えた人材確保が課題です。さらに、外来担当医が異動する場合もあるため、今後はカンファレンスなどをとおして医師と看護師間の連携をよりスムーズにしていくことが重要であると考えています。
北見赤十字病院 住田様:当院は現在LTFU外来を担当している看護師が私1人のため、後進の育成が急務だと思っています。まずは内科外来の看護師とのカンファレンスを通して情報共有を行っていきたいと考えています。
釧路労災病院 佐々木(祐)様:ほかの施設と同じですが、一番の課題はLTFU担当看護師の育成です。
後藤先生:なるほど、どの施設においても充実したLTFU外来を行っていきたい一方で、人事異動や産休などにより経験を積んだスタッフが毎年抜けてしまうことが問題になっているようですね。
できるだけ効率的にLTFU外来を行っていくうえでは、患者さんやご家族に説明するツールを充実することが重要であり、同時に説明内容が施設間で食い違わないよう統一したツールを作成することが求められると思います。この点について、地域連携という視点も含めて各施設の取り組みを教えてください。
北海道大学病院 村上様:たとえば、北海道大学病院で移植した患者さんと、札幌北楡病院で移植した患者さん、それぞれの退院指導の内容が違うため、地元の病院に戻った後の連携病院(たとえば釧路労災病院や北見赤十字病院など)で不具合が出てしまうということがあるようです。そのため、退院指導の内容に食い違いが出ないように、当院の三宅師長を中心にいくつかの施設に協力してもらい、統一した退院パンフレットを作成していこうと思っています。
北海道大学病院 三宅様:現在、日本造血・免疫細胞療法学会で作成されたリーフレットを基に、北海道全体の共通パンフレットの作成に着手しています。今後、全国のモデルケースとして北海道から発信していけるように取り組みを進めていきたいと思います。
札幌北楡病院 斉藤様:移植をしている施設、していない施設、どちらにおいても移植に特化した看護添書(移植前後の病院で患者さんの状態を申し送るお手紙)のフォーマットにはなっていないという現状があります。そのため、移植に特化した看護添書を今後作っていきたいと考えています。また移植後、地域の病院に帰られた後の経過についても共有し合う機会を持つことも大事ではないでしょうか。
釧路労災病院 佐々木(祐)様:コロナ禍以前は、北海道大学病院を中心とした造血幹細胞移植推進拠点病院事業が開催していたセミナーに参加した際に、各施設のスタッフ間で患者さんの経過について情報共有や相談ができていて、お手紙だけでは伝わらない部分についても聞くことができて本当に助かっていました。今後はWebセミナーになってしまうと思いますが、ちょっとしたことでも相談できる場を作っていただけたら嬉しいです。
北見赤十字病院 住田様:移植後の患者さんと関わっていくにあたって「移植でつらかったこと」「どうやってそれを乗り越えたのか」といった情報に関してはぜひとも知っておきたいところです。そのためにも施設間でリモートでの情報共有を進めていきたいと考えています。
後藤先生:北海道全体の共有ツールの構築は、どこで移植後のLTFUを受けても同じレベルの説明・指導を受けられるようになるので、患者さんやご家族にもメリットがある取り組みですね。また、移植後も施設間で情報を共有し話し合うことは、LTFUを行っていく看護師にとっての経験や知識向上にもつながりますので、さらに充実したネットワーク構築が必要であると理解しました。この点については、造血幹細胞移植推進拠点病院事業でも積極的に取り組んでいきたいと思います。
それでは次に、LTFUにおける今後の目標、抱負についてお聞かせください。
札幌北楡病院 小野様:どのスタッフも十分なスキルでLTFUを行えるようにしたいと考えています。もちろんそれぞれの力量というものは存在しますが、基本的な指導内容に関してはリーフレットなどのツールを利用していくことで、スタッフの入れ替わりがあってもスムーズに引き継ぎを行っていきたいです。
北海道大学病院 村上様:最近は復職支援の重要性を実感しています。20歳代、30歳代の患者さんの場合、退院して自宅での生活が落ち着いてくると、やはり復職を考える方が多くいらっしゃいます。今後はLTFU外来でも病院の復職支援チームと連携を取って、職場復帰に向けた支援も行っていきたいと考えています。
北見赤十字病院 住田様:私たちの施設では移植は行っていませんが、パンフレットやリーフレットなどのツールを活用し、理学療法士などと連携しながらより質の高いLTFU外来を目指していきたいと思います。
釧路労災病院 佐々木(祐)様:LTFU外来担当だけではなく、病棟看護師全体で患者さんが退院した後の生活背景を理解し支えていきたいと考えています。
後藤先生:どの施設も患者さんの目線に立って、さらによいLTFUを提供しようという意気込みを感じました。昨今、LTFUに活用できるさまざまなツールが登場してきていますから、それらをうまく北海道の実情に合わせて利用していくことでLTFUの質の向上、ひいては全国のモデルケースとして北海道が一丸となって取り組んでいけるように造血幹細胞移植推進拠点病院事業でもサポートさせていただきます。
最後に、各施設から患者さんにメッセージをいただきたいと思います。
北見赤十字病院 住田様:患者さんのQOL向上を目指して、施設間でも多職種間でもしっかりと連携した長期的なフォローアップをさせていただきます。ですからどうか安心して地域に帰ってきてください。
釧路労災病院 佐々木(祐)様:北見赤十字病院さんと同じく、造血幹細胞移植推進拠点病院事業を活用しながら移植施設や多職種間での連携を密にして、全力でフォローアップを継続していきますので、安心して地元に戻ってきてください。
札幌北楡病院 小野様:これから移植を受ける方も、移植を受けた後の方もできる限り移植前の生活・社会に戻っていけるよう、患者さんを支えていきます。移植を乗り越えた後、慢性のGVHDなどを抱えながらも元気に過ごしている方がたくさんいらっしゃいます。一生懸命サポートしていきますので、安心して治療を受け、安心して地元地域に戻ってください。
北海道大学病院 村上様:移植施設として、医療的な面はもちろん、つらい治療に向き合う気持ちといった面でも全力でサポートさせていただきます。また移植を終えた方には、そのつらい治療を乗り越えたからこそのかけがえのない生活、大事な毎日を送ってもらえればと思います。そのためにも入院・外来を問わず、少しでも気になるところがあれば相談してもらえたら幸いです。
後藤先生:移植は致命的な合併症も生じ得るハイリスクな治療である一方で、治癒が期待できるハイリターンな治療です。移植経過を通じてつらい症状が出てくるかもしれません。また移植後の生活において社会的な面でもつらいことがあるかもしれません。今回のインタビューを通じて「もっと患者さんのQOL(生活の質)をよいものにしよう」「どうすればよりよいフォローアップを患者さんに提供できるのだろう」と試行錯誤しながら、日々全力で取り組んでいる各施設の意気込みを伺うことができました。このように一生懸命取り組んでいる姿勢により、勇気づけられている患者さんやご家族も多いのではないかと思います。また同時に、現時点での問題点や取り組むべき課題も見えてきましたので、造血幹細胞移植推進拠点病院事業でも全面的にサポートしていきたいと考えています。そして、全国のLTFUのモデルケースとなるべく、北海道全体で連携しながらよりよい医療の提供を目指していきたいと思います。
本日は、お忙しい中インタビューにご協力いただきありがとうございました。